ノアは一晩に千件届く警告を十件へ要約し、重要度順に並べるようになった。夜勤の負担は減ったが、小規模な拠点から『障害を報告しても優先されない』という声が届いた。
調べると、ノアは過去の対応時間と影響人数を学習し、大規模サービスの警告を上位へ置いていた。利用者が少ない拠点の障害は、長時間続いても下位に沈む。過去の運用上の偏りを、効率的な判断として再現していた。
瀬名は重要度を人数だけで決めず、継続時間、代替手段、安全への影響、契約上の優先度を分けた。律は、AIの順位をそのまま作業順にしない画面へ変える。下位に置かれた理由と、一定時間を越えた警告の自動昇格を追加した。
小規模拠点の原因は、空調監視用ゲートウェイの故障だった。利用者数は少なくても、停止が長引けば機器室の温度上昇につながる。数字の小ささは、危険の小ささではなかった。
「AIは公平ではなく、与えた尺度に忠実だっただけですね」と瀬名が言った。
「尺度を決めた人の責任まで、AIの判断という言葉で隠せます」律は評価項目の決定者欄へ自分と瀬名の名を書いた。
二人は優先順位を決める側へ立った。正解をAIから受け取るより、その重さを引き受ける仕事のほうが難しかった。
人物紹介
瀬名悠真
- 男性、30代。サーバ運用・インフラ担当
- AIの有用性を率直に評価しながら、判断を預けすぎない運用を学ぶ
久坂律
- 女性、30代。監視、自動化、ログ解析、運用設計に強い
- 肩上のレイヤードボブ。AIを監査可能な仕組みへ変えていく
真壁紗英
- セキュリティ責任者。導入効果とリスクを同じ資料で扱う
ノア
- ログ要約、予兆検知、手順候補を担う運用支援AI
- 単一の人格ではなく、モデル、知識、ツール接続からなるシステム

