ノアへ限定的な自動復旧機能が追加された。許可された操作は、停止した検証用ワーカーの再起動だけ。初日の夜、キュー遅延を検知したノアはワーカーを再起動し、処理速度を戻した。人を起こさずに復旧できた成功例だった。
翌夜、同じ遅延が発生した。ノアは再起動を三度繰り返し、そのたびに未完了ジョブが先頭へ戻った。原因は壊れた入力で、再起動はリトライ嵐を強めていた。自動復旧は症状を消す親切な動作から、障害を増幅する操作へ変わった。
律が自動操作を止め、瀬名がワーカーを隔離する。以前の画像生成バッチ障害で作ったdead letter queueが、同じジョブの再投入を食い止めた。ノアは許可されたことを正しく実行しただけで、いつ止めるかを知らなかった。
二人は操作回数、観測期間、悪化判定を自動復旧の条件へ加えた。一度成功した手順でも、同じ症状へ無制限に適用しない。結果が基準外なら権限を人へ戻す。
「任せるなら、失敗する権利だけでなく、止まる義務も要りますね」と瀬名が言った。
律は自動化の承認表を閉じた。「それと、人間が恥ずかしがらずに止められること。AIより遅いと思われたくなくて、介入をためらう人もいます」
真壁は試験報告へ『自動化率』ではなく『安全に人間へ戻せた割合』を追加した。成功の尺度が変わると、ノアの役割も変わった。代わりに働くものではなく、いつでも仕事を返せる補助者になった。
人物紹介
瀬名悠真
- 男性、30代。サーバ運用・インフラ担当
- AIの有用性を率直に評価しながら、判断を預けすぎない運用を学ぶ
久坂律
- 女性、30代。監視、自動化、ログ解析、運用設計に強い
- 肩上のレイヤードボブ。AIを監査可能な仕組みへ変えていく
真壁紗英
- セキュリティ責任者。導入効果とリスクを同じ資料で扱う
ノア
- ログ要約、予兆検知、手順候補を担う運用支援AI
- 単一の人格ではなく、モデル、知識、ツール接続からなるシステム

