
ネットワークの経路に直接挟み込む(インライン配置する)セキュリティ機器「IPS」において、機器の障害時や電源OFF時に通信をストップさせず、そのままスルーさせる仕組みを 「ハードウェアバイパス(Fail-Open)」 と呼びます。
ネットワークの可用性(維持)を重視する設計では必須の機能ですが、実は「通常運用 ➡️ バイパス状態」への切り替え(スイッチオーバー)、およびその逆の復旧時、トラフィックが数秒間中断する(瞬断が起きる)仕様になっています。
今回は、なぜこの瞬断が発生するのか、そして中断時間に影響を与える技術的な要因について詳しく解説します。
1. なぜ切り替え時に瞬断が起きるのか?
ハードウェアバイパスは、IPSの内部にあるリレー回路などを物理的・論理的に切り替えることで、通信を直結させる仕組みです。
切り替えの瞬間、リンク(接続)がいったん切れて再接続されるような動きをするため、物理的な信号の切り替えに伴う「隙間」が生じます。このわずかな時間のせいで、流れているデータ(トラフィック)が一時的にストップしてしまうのです。
2. 中断時間の長さに影響を与える4つの要因
この瞬断(接続が落ちる時間)が「一瞬」で済むのか、「数秒〜数十秒」に延びてしまうのかは、周辺のネットワーク機器の設定や挙動によって大きく変わります。主な影響要因は以下の4つです。
① 銅線ポートの自動ネゴシエーション(Auto Negotiation)
メタルケーブル(LANケーブル)を使用している場合、リンクが切り替わった直後に、対向の機器同士で「通信速度(1Gbpsなど)や通信モード(全二重など)」を調整し直す挙動(自動ネゴシエーション)が入ります。これが完了するまでに数秒のタイムラグが発生します。
② 光リンクパートナーの動作(エラー・デバウンスタイミング)
光ファイバー(オプティカル)環境の場合、対向のスイッチやルーター(リンクパートナー)が、リンクの切断(エラー)や瞬時な揺らぎを検知した際、どれくらいの猶予を持って再認識(デバウンス)するかという内部仕様・タイマーによって時間が左右されます。
③ スパニングツリープロトコル(STP)のコンバージェンス
ネットワークにループを防ぐSTP(Spanning Tree Protocol)が動作している場合、IPSの切り替えによるリンク変動を「トポロジーの変化」と見なしてしまい、経路の再計算(コンバージェンス)が始まってしまうことがあります。設定によっては、通信が復旧するまでに数十秒間待たされる原因になります。
④ ダイナミックルーティングプロトコルのコンバージェンス
OSPFやBGPなどの動的ルーティングを導入している場合、一瞬のリンク断によって「隣接機器(ネイバー)がダウンした」と判定されると、ルートの再計算が発生し、経路が切り替わるまで通信が遮断され続けることがあります。
3. 「通常運用に戻った後」にも通信が切れる罠がある?
無事にバイパス状態から「通常のIPS監視運用」に戻った後にも、もう一つの罠があります。それが「アプリケーションの識別エラー」による切断です。
IPSは通常、通信の「始まり(3ウェイ・ハンドシェイクなど)」から中身をじっくり見て、「これはWeb閲覧の通信だな」「これはファイル転送だな」とアプリケーションを識別しています。
しかし、バイパス状態から通常運用に戻った瞬間、「すでに通信の途中(ミッドストリーム)であるデータ」が突然IPSに流れ込んでくることになります。途中からデータを渡されたIPSは、その通信が何のアプリケーションなのか正しく識別できず、セキュリティリスク(異常なパケット)とみなして、接続をバッサリ切断してしまうことがあるのです。
まとめ:メンテナンスや設計時の注意点
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ハードウェアバイパスの切り替え・切り戻し時には、物理的・論理的な理由で「数秒間の通信中断」が発生する。
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周辺機器のSTPやルーティング、自動ネゴシエーションの設定次第で、中断時間が長くなるリスクがある。
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通常運用に戻した直後は、通信中のセッションが強制切断される可能性がある。
これらは製品の不具合ではなく、ネットワークとセキュリティ機器の仕様上の性質です。
そのため、IPSの設置・撤去や、バイパス機能の動作テストを行う際は、必ず「数秒〜数十秒の瞬断、およびセッション切断が発生しても問題ない時間帯(夜間やメンテナンスウィンドウ)」を確保して実施するようにしましょう!
【参考】
