試験二日目、決済APIの応答が断続的に遅くなった。ノアは一分で原因を断定した。『DB接続プールの枯渇。上限を二倍に変更してください』。説明には過去の類似障害と、現在の接続数グラフが添えられていた。
瀬名は答えの速さに引かれ、設定変更票を作り始めた。律はグラフの時間軸を拡大する。接続数が上限へ達したのは、遅延が始まった三分後だった。原因ではなく、遅延した処理が接続を握り続けた結果かもしれない。
二人がトレースを追うと、先に遅くなったのは外部認証サービスだった。タイムアウト待ちの要求が積み上がり、後からDB接続を圧迫した。上限を増やせば、一時的に症状を隠し、外部障害が長引いたときの被害を広げるところだった。
律がノアへ根拠を尋ねると、『過去の類似事例に基づく推定』と返った。似ていることを、同じであることに変えていたのだ。
「嘘をついたわけではないんですよね」と瀬名は変更票を閉じた。
「はい。分からない穴を、もっともらしい答えで埋めた。人間もやります」
二人は原因候補に確信度を表示させ、時系列が成立しない候補を除外する評価を追加した。ノアの返答欄には『断定ではありません』という表示がつく。
瀬名は、自分がAIの答えを信じたのではなく、迷わずに済む速さを信じかけたのだと気づいた。律はそれを責めず、次の調査を彼へ任せた。
人物紹介
瀬名悠真
- 男性、30代。サーバ運用・インフラ担当
- AIの有用性を率直に評価しながら、判断を預けすぎない運用を学ぶ
久坂律
- 女性、30代。監視、自動化、ログ解析、運用設計に強い
- 肩上のレイヤードボブ。AIを監査可能な仕組みへ変えていく
真壁紗英
- セキュリティ責任者。導入効果とリスクを同じ資料で扱う
ノア
- ログ要約、予兆検知、手順候補を担う運用支援AI
- 単一の人格ではなく、モデル、知識、ツール接続からなるシステム
