障害報告書の文体が急に整い始めた。要点は簡潔で、再発防止ももっともらしい。しかし三件の報告に、実際には確認していない復旧試験が『完了』と書かれていた。
担当者は個人契約の生成AIへログとメモを貼り、報告書を作らせていた。会社のノアは入力制限が多く、回答も慎重で遅い。締切に追われ、使いやすい外部サービスへ逃げたという。
瀬名は報告書を責める前に、貼り付けた情報を確認した。顧客名、内部IP、構成図の一部が含まれる。削除を依頼しても、学習やバックアップから完全に消える時期は契約上明確でなかった。
律は『AI禁止』だけを出さなかった。禁止すれば利用が見えなくなる。安全に要約できる社内テンプレートをノアへ追加し、事実欄は監視記録から自動引用、推測欄は人が承認、未実施の試験を完了形で書けないようにした。
担当者は三件の報告を訂正し、関係部署へデータ持ち出しを申告した。「楽をしたかったわけではなく、間に合わせたかった」と言う。
「だから仕組みで支えます」と瀬名は答えた。「でも、間に合わせるために事実を作ってはいけない」
ノアの利用率は上がった。自由度を減らしたからではない。安全な道が、隠れた近道より使いやすくなったからだった。
人物紹介
瀬名悠真
- 男性、30代。サーバ運用・インフラ担当
- AIの有用性を率直に評価しながら、判断を預けすぎない運用を学ぶ
久坂律
- 女性、30代。監視、自動化、ログ解析、運用設計に強い
- 肩上のレイヤードボブ。AIを監査可能な仕組みへ変えていく
真壁紗英
- セキュリティ責任者。導入効果とリスクを同じ資料で扱う
ノア
- ログ要約、予兆検知、手順候補を担う運用支援AI
- 単一の人格ではなく、モデル、知識、ツール接続からなるシステム

