最終メンテから三か月後の朝、瀬名と律は駅前の店で朝食を取っていた。障害のない日に会う約束は、一度きりの特別行事ではなくなっている。窓の外では通勤する人が増え、夜勤明けの二人だけが、少し遅い時間を歩いていた。
会社へ戻ると、新しい試験導入の通知が待っていた。運用支援AI「ノア」。監視データ、構成情報、過去の障害票を読み、ログの要約と原因候補、確認手順を提示する。最初の対象は、二人が守ってきた基幹サービスだった。
律は説明資料の性能値より先に、接続先と権限表を開いた。「何を答えられるかより、何を見られて、何を動かせるかです」
瀬名はノアへ昨夜の警告を尋ねた。数千行のログが十秒で整理され、バックアップの終了時刻とI/O上昇が同じ時間帯に重なっていると表示される。人なら三十分はかかる下調べだった。
「便利ですね」と瀬名が言うと、律も否定しなかった。「便利です。だから、間違えたときに遠くまで届く」
二人は試験条件を決めた。ノアは閲覧専用。原因は複数候補で示す。根拠となるログ行を必ず添える。実行操作は人間が別の画面で承認する。会話履歴と参照データの版を保存する。
夜勤室に第三の席は増えなかった。増えたのは、二人の画面に開かれた小さな対話欄だけだった。それでも瀬名には、今までと違う当番が始まったように思えた。
人物紹介
瀬名悠真
- 男性、30代。サーバ運用・インフラ担当
- AIの有用性を率直に評価しながら、判断を預けすぎない運用を学ぶ
久坂律
- 女性、30代。監視、自動化、ログ解析、運用設計に強い
- 肩上のレイヤードボブ。AIを監査可能な仕組みへ変えていく
真壁紗英
- セキュリティ責任者。導入効果とリスクを同じ資料で扱う
ノア
- ログ要約、予兆検知、手順候補を担う運用支援AI
- 単一の人格ではなく、モデル、知識、ツール接続からなるシステム
