ノアが提案する復旧手順の評価が急に上がった。操作が短く、説明も分かりやすい。瀬名が出典を確認すると、社内Wikiへ前日に追加された『高速復旧版』を優先していた。
手順には、検証を省いてキャッシュを全削除する操作と、権限エラー時にアクセス制御を広く緩める記述があった。実行すれば一時的に直る可能性はあるが、別の障害と侵入経路を作る。編集者は退職済みの共有アカウントになっていた。
律はWikiを閉鎖せず、変更履歴と認証ログを保全した。攻撃者はAIが社内文書を参照することを知り、正規の知識へ危険な手順を混ぜたらしい。モデルを攻撃せず、モデルが信じる資料を汚したのだ。
二人は手順書へ所有者、レビュー日、承認者、適用環境を必須にした。期限切れや単独編集の文書は参考情報へ格下げし、ノアが実行候補へ使えないようにする。危険なコマンドには、実行対象を限定する検査を別に置いた。
瀬名はこれまでの夜間保守で増やしてきたチェックリストを見直した。良い手順も、誰も世話をしなければ古くなる。AIが読むことで、放置された一行の影響は以前より大きい。
「知識を増やせば賢くなる、だけではないんですね」
律は汚染された版を証拠保管へ移した。「何を覚えさせないか、誰の訂正を信じるか。それも教育です」
人物紹介
瀬名悠真
- 男性、30代。サーバ運用・インフラ担当
- AIの有用性を率直に評価しながら、判断を預けすぎない運用を学ぶ
久坂律
- 女性、30代。監視、自動化、ログ解析、運用設計に強い
- 肩上のレイヤードボブ。AIを監査可能な仕組みへ変えていく
真壁紗英
- セキュリティ責任者。導入効果とリスクを同じ資料で扱う
ノア
- ログ要約、予兆検知、手順候補を担う運用支援AI
- 単一の人格ではなく、モデル、知識、ツール接続からなるシステム
