ノアがストレージ障害の予兆を検知した。温度、書き込み遅延、訂正可能エラーの組み合わせが、三日以内の故障確率を高めているという。監視閾値はどれも越えていない。
瀬名は予防交換を提案したが、交換にはサービス停止と費用が要る。律はノアへ理由を尋ねる。返ってきたのは特徴量の順位で、人が理解できる因果説明ではなかった。
二人は同型機の履歴とメーカー診断を照合した。過去に似た兆候から二台が故障している一方、同じ兆候で半年動いた機器もある。予測は役立つが、確定ではない。
影響の小さい冗長系から一台を交換し、取り外した機器を検査する判断にした。内部には初期劣化が見つかり、ノアの警告は結果として正しかった。
しかし律は報告書に『AIが故障を当てた』とは書かなかった。予測、代替可能性、停止影響、検査計画を合わせて、人間が交換を決めたと記録した。
「正しかったなら、もっと信じてもいいのでは」と瀬名が尋ねる。
「正解した実績は重くします。でも、説明できない正解へ責任まで渡しません」
ノアは第三の目になった。目がよく見えることと、進む方向を決めることは別だった。
人物紹介
瀬名悠真
- 男性、30代。サーバ運用・インフラ担当
- AIの有用性を率直に評価しながら、判断を預けすぎない運用を学ぶ
久坂律
- 女性、30代。監視、自動化、ログ解析、運用設計に強い
- 肩上のレイヤードボブ。AIを監査可能な仕組みへ変えていく
真壁紗英
- セキュリティ責任者。導入効果とリスクを同じ資料で扱う
ノア
- ログ要約、予兆検知、手順候補を担う運用支援AI
- 単一の人格ではなく、モデル、知識、ツール接続からなるシステム
