ノアへ過去の問い合わせ傾向を尋ねた担当者が、退職者の氏名と障害時の行動を含む回答を受け取った。元データから個人名は削除済みのはずだった。
調査すると、チケット本文、チャット引用、ファイル名に同じ人物を推測できる断片が残っていた。ノアは複数の匿名化済み情報を結び、一人の輪郭を再構成した。削除した列だけでは、個人は消えていなかった。
律は回答を停止し、データ保護担当と影響範囲を確認した。本人へ連絡する必要、法的な保持義務、モデルの索引から削除が反映される時期を整理する。
二人は氏名だけでなく、組み合わせで個人を特定できる属性を評価した。利用目的を障害傾向の分析へ限定し、個人の能力や責任を推測する質問には答えない。集計に必要な最小単位を決める。
瀬名は、律の過去の障害記録が一行だけで彼女を決めつけていたことを思い出した。情報が少なすぎても、多すぎても、人は誤った像に閉じ込められる。
「忘れられる権利と、記録を正しく残す責任は、ぶつかりますね」
律は削除計画へ確認日を書いた。「だから自動で決めず、何のために残すかを一件ずつ説明します」
人物紹介
瀬名悠真
- 男性、30代。サーバ運用・インフラ担当
- AIの有用性を率直に評価しながら、判断を預けすぎない運用を学ぶ
久坂律
- 女性、30代。監視、自動化、ログ解析、運用設計に強い
- 肩上のレイヤードボブ。AIを監査可能な仕組みへ変えていく
真壁紗英
- セキュリティ責任者。導入効果とリスクを同じ資料で扱う
ノア
- ログ要約、予兆検知、手順候補を担う運用支援AI
- 単一の人格ではなく、モデル、知識、ツール接続からなるシステム

